交通事故 後遺障害
2021.01.23 2024.04.25

交通事故で麻痺が残ってしまったら?

交通事故で麻痺が残ってしまったら?

交通事故に遭い、被害者の方が負傷した場合、治療を継続的に行ったとしても、身体に症状が残ってしまうことは少なくありません。

これを「後遺障害」といい、後遺障害は様々な種類があります。

負傷した箇所によっては、半身不随となったり、顔面の表情金が動かせなくなったりするといった、身体に麻痺が残ってしまうことがあります。

ここでは、交通事故で麻痺が残ってしまった場合の後遺障害についてや、慰謝料などの損害賠償についてご説明をさせていただきます。

事故後の麻痺

後遺障害

交通事故において発症しうる麻痺は、外傷が原因で神経に障害が残ってしまい、筋肉の硬直や弛緩などにより、身体が自身の意思で動かせなくなったり、知覚が鈍くなったり、完全になくなってしまったりする身体機能障害をいいます。

交通事故において、麻痺が残る原因は、主に2種類があります。

1つは、「外傷性脳損傷」による麻痺です。

これは、主に自分の意思で動かすという随意運動を制御する脳の部分(前頭葉の後部等)が傷つくことで生じます。

前頭葉の右後部が損傷した場合は、左半身に麻痺が生じます。一方で、前頭葉の左後部が損傷した場合は、右半身に麻痺が生じることになります。

交通事故で頭部を強く殴打するなどの衝撃があった際に、外傷性脳損傷が起こりうる恐れがあります。

2つめは、「脊髄損傷」による麻痺です。

脊髄とは、小脳から頚椎、胸椎、腰椎の脊柱管が保護している中枢神経です。脊髄損傷による麻痺は、脳と手足などの末梢神経管との信号を伝達するこの中枢神経が傷つくことで生じる麻痺です。

交通事で背骨や首の骨が折れてしまう衝撃を受けてしまった際に、脊髄が損傷する恐れがあります。

いずれの場合が原因の麻痺であっても、脳や脊髄は一度損傷すると再生することは、現代の医学ではできないため、完治することはなく、後遺障害が残ることとなります。

等級

交通事故が原因で、後遺障害として麻痺が残った場合、後遺障害等級認定の申請を行います。

後遺障害の等級は全部で1~14級、または非該当があり、後遺障害の内容によって等級が判断されます。

後遺障害の認定基準は以下の要素により判断されます。

・麻痺の範囲(四肢麻痺、片麻痺、単麻痺、対麻痺)

・麻痺の程度(高度、中等度、軽度)

・MRIやCTなどの画像検査所見による裏付け

・各神経症状テストの検査結果

・要介護か否か、要介護の場合はその程度

・後遺障害診断書等記載内容

 

等級を獲得するためには、脊髄損傷が生じているだけではなく、脊髄のどの範囲、どの程度の麻痺が生じているかを、医学的に証明することが必要となります。

さらに、その麻痺症状により、周りの介護がどの程度必要なのか否かも判断材料の1つです。

麻痺としびれ

医学的見解

交通事故が原因で麻痺ではなく、しびれが身体に残ることもあります。

麻痺としびれはよく混合して認識がなされています。

確かに、麻痺もしびれも、同じく体性神経の障害ですが、症状が異なります。

違い

しびれは、身体の一部にピリピリ、ビリビリなどといった感覚の異常が生じること、力が入りにくくなってしまう症状をいいます。

これに対して、麻痺の症状は、身体を動かすことが思い通りにできなかったり、また知覚機能がなくなってしまったりします。

つまり、知覚機能に関する神経である感覚神経の障害により生じるものが「しびれ」であり、運動機能に関する神経で運動神経の障害によって生じるものが「麻痺」となります。

麻痺の種類・範囲・程度

麻痺は生じた部位や、麻痺の状態で種類が分けられます。

・完全麻痺

完全麻痺は、脊髄が横断的に離断したことで、末梢神経への伝達機能が完全に失われてしまう麻痺です。

脳からの信号がすべて絶たれてしまうので、四肢・体幹の運動機能が喪失します。そのため、自分の意思では全く動かすことができなくなります。

また、同時に脳へ感覚情報を送る機能も経たれているため、感覚機能も喪失します。

さらに、自律神経系も同時に損傷することから、代謝機能、体温調節機能も正常に機能することが難しくなります。

・不全麻痺

不全麻痺は、神経伝達機能の一部が絶たれたことで、対象部位の運動機能が部分的に失われる状態を指します。

自分の意思で全く動かせなくなる完全麻痺とは異なり、自分の意思で麻痺の症状のある脚や腕を、困難ではあるものの多少は動かすことができます。

感覚機能については、鈍くなる場合があります。

以下は麻痺の範囲を整理した表です。

麻痺の範囲

区別 説明
四肢麻痺 両方の上肢と下肢の麻痺
片麻痺 片方の上肢と下肢の麻痺
単麻痺 上肢または下肢の一肢の麻痺
対麻痺 両方の上肢または両方の下肢の麻痺

 

なお、麻痺の起こる箇所ですが、損傷部位によって、上半身、下半身、全身、顔面と異なります。

基本的には、損傷した身体の部位よりも「下」に麻痺は生じます。

つまり、上半身のみに麻痺が生じるケースは珍しいです。

脊髄損傷による、両腕または両脚に麻痺が生じる対麻痺はその中でも特に珍しいです。

上半身に生じる麻痺の多くを占めるのは、脳の損傷により生じる単麻痺や、脳の損傷又は脊髄損傷により生じる片麻痺となります。

一方で、下半身の麻痺は、胸椎内の脊髄である「胸髄」より下の脊髄を損傷した場合に起こることが多いです。この場合は、両側の下肢が自身の思いどおりに動かすことができなくなります。

下半身麻痺の場合は、運動機能障害や知覚機能障害だけなく、排泄機能への障害なども起こる場合があります。

上半身、下半身の両方、つまり全身の麻痺は、背骨の最上部にある頚椎部分を損傷した場合に起こりえます。

全身の麻痺は四肢麻痺といい、四肢への神経伝達に麻痺が生じることから、損傷部位より下の部分に、運動機能障害、知覚機能障害、排泄機能障害の他、消化機能障害、自律神経障害等が生じます。

顔面に起こる麻痺については、顔面神経麻痺と呼ばれます。

顔面にある神経核から表情筋の間までが、損傷した場合、表情筋を動かすことができなくなります。

ただし、表情筋は複数あることから、麻痺の症状は様々です。

口角が上がらない、眼を閉じることが困難であったりします。口周りの筋肉が麻痺をすると食事にも影響が出ます。涎が止まらないなどといったものだけでなく、味覚障害が起こることもあります。

また、聴覚障害等も生じる可能性があります。

さて、麻痺と言っても、損傷の具合によっては、程度が異なります。

麻痺の程度は、高度・中程度・軽度に分けられることになります。

 

麻痺の程度

区別 説明
 

高度

運動性・支持性 ・障害のある上肢または下肢の運動性・支持性のほとんどが失われている状態

 

基本動作 ・障害のある上肢または下肢の基本動作ができない状態

※基本動作…立ち上がる、歩行をする、物を持ち上げて移動させる

上肢 ・完全硬直またはこれに近い状態

・三大関節および5つの手指のいずれの関節も自動運動によって稼働させることができない状態、またはこれに近い状態

・随意運動の著しい障害が原因により、一上肢では物を持ち上げて移動させることができない状態

 

下肢 ・完全硬直またはこれに近い状態

・三大関節のいずれも自動運動によって可動させることができない状態、またはこれに近い状態

・随意運動の著しい障害が原因により、一下肢の支持性および随意的な運動性のほとんどが失われている状態

 

 

中程度

運動性・支持性 ・障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われている状態

 

基本動作 ・障害のある上肢または下肢の基本動作にかなりの制限がある状態

 

上肢 ・障害を残した一上肢では、仕事に必要な軽量の物(※)を持ち上げることができない状態、または障害を残した一上肢では、文字を書くことできない状態

※おおむね500グラム程度

下肢 ・障害を残した一下肢を有するために、杖もしくは硬性装具なしには階段の上りができない状態、または障害を残した両下肢の影響で、杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難である状態

 

軽度 運動性・支持性 ・障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が多少失われている状態

 

基本動作 ・障害のある上肢または下肢の基本動作を行う際に、巧緻性(手先の器用さ)および速度が相当程度損なわれている状態

 

上肢 ・障害を残した一上肢では、文字を書くことについて困難な状態であること

 

下肢 ・日常生活においては、ほぼ独歩が可能ではあるが、障害を残した一下肢を有するために、不安定であり、転倒しやすかったり、速度が遅かったりする状態。または、障害を残した両下肢を有するために、杖もしくは硬性装具なしには階段の上りができない状態。

 

逸失利益について

交通事故が原因で麻痺が身体に残った場合、多くの場合が、その後の仕事に影響があります。

麻痺の程度によっては、全く働けない方、就労できる職業に制限の出る方もいらっしゃるでしょう。

ここからは、麻痺が後遺障害として残った場合、請求が可能となる、「逸失利益」についてご説明を致します。

 

定義

逸失利益とは、交通事故で受傷しなければ、本来被害者の方が将来的に得られたはずの収入(利益)のことを指します。

逸失利益が請求できるのは、被害者の方が亡くなった場合や、後遺障害が残り、後遺障害等級の認定申請を受けて、1~14級の等級が認定された場合となります。

また、請求する被害者の方には、基本的に「事故前に収入があったこと」が想定されています。無収入の方や生活保護受給者の方は、基本的に請求はできません。

ただし、専業主婦(主夫)の方、将来的に収入を得るはずだった学生や子供の場合などは、平均賃金より基礎収入が算出され、請求は可能となります。

 

計算式

逸失利益の計算式は以下となります。

後遺障害逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

・基礎収入額

被害者の方の年収で計算されるものであり、事故前の収入額をベースとします。

・労働能力喪失率

身体に残った後遺障害がどれほど仕事に影響を及ぼしているかを数値化しています。

後遺障害の等級によって、労働能力がどの程度失われているか決まっています。以下の表を見ていただくとわかるように、後遺障害の等級が高ければ高いほど、労働能力喪失率は高くなります。

等級 労働能力喪失率
1級 100%
2級 100%
3級 100%
4級 92%
5級 79%
6級 67%
7級 56%
8級 45%
9級 35%
10級 27%
11級 20%
12級 14%
13級 9%
14級 5%

 

・労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

労働能力喪失期間は、「症状固定(これ以上治療を続けても、良くも悪くもならない状態)から67歳を迎えるまでの年数」をさします。

事故に遭った被害者の方が67歳前後であれば、平均余命期間の2分の1の年数を労働能力喪失期間として考えます。

ライプニッツ係数とは、逸失利益を預金運用することで増える利子分の金額を、予め差し引くための数値です。

これは、将来時間をかけて受け取る収入を、現在一括で受けとることから、将来発生する利息を調整する必要があるという考え方です。

逸失利益は、等級や労働能力喪失期間が異なるだけで、大幅に金額が異なるため、算出は慎重にならなければなりません。

後遺症

等級

先ほども述べましたが、治療を行ったにも関わらず、麻痺の後遺症が残ってしまった場合は、後遺障害等級の認定の申請を行うようにしましょう。

麻痺の場合、考えられる等級は以下の通りです。

 

後遺障害等級 障害の内容
要介護1級 生命維持に必要な身の回りの処理の動作について

常時介護が要するもの

要介護2級 生命維持に必要な身の回りの処理の動作について

随時介護が要するもの

3級 生命維持に必要な身の回りの処理の動作について

可能ではあるが、労務に服することができないもの

5級 極めて簡易な労務にしか服することができないもの
7級 簡易な労務にしか服することができないもの
9級 通常の労務には服することはできるが、

就労可能な職種について相当程度に制約されるもの

12級 通常の労務には服することはでき、

職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの

 

複数の等級に該当する症状が後遺障害として残った場合は、最も高い等級が採用されます。

以下は各党と級の具体的な判断基準です。

【後遺障害要介護第1級の基準】

「生命維持に必要な身のまわり処理の動作について常時介護を要するもの」には、以下の症状が当てはまります。

・高度の四肢麻痺が認められる

・高度の対麻痺が認められる

・中程度の四肢麻痺であり、食事や入浴、用便、また更衣等について常時介護を要する

・中程度の対麻痺であり、食事や入浴、用便、また更衣等で常時介護を要する

【後遺障害要介護第2級の基準】

「生命維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの」とは、以下の症状が当てはまります。

・中程度の四肢麻痺が認められる

・軽度の四肢麻痺であって、食事や入浴、用便、また更衣等で随時介護を要する

・中程度の四肢麻痺で、食事や入浴、用便、また更衣等について随時介護を要する

【後遺障害第3級の基準】

「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、労務に服することができないもの」とは、以下の症状が当てはまります。

・軽度の四肢麻痺が認められる

・中程度の対麻痺が認められる

【後遺障害第5級の基準】

「極めて軽易な労務にしか服することができないもの」とは、以下の症状が当てはまります。

・軽度の対麻痺が認められる

・一下肢に高度の単麻痺が認められる

【後遺障害第7級の基準】

「軽易な労務にしか服することができないもの」とは、以下の症状が当てはまります。

・軽度の片麻痺が認められる

・一下肢に中程度の単麻痺が認められる

【後遺障害第9級の基準】

「通常の労務に服することはできるが、就労可能な職種が相当程度に制約されるもの」とは、以下の症状が当てはまります。

・一下肢に軽度の単麻痺が認められる

【後遺障害第12級の基準】

「通常の労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの」とは、以下の症状が当てはまります。

・運動性、支持性、巧緻性および速度についての支障はほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの

・運動障害は認められないが、広範囲にわたる感覚障害が認められる

慰謝料

交通事故の損害賠償請求において、慰謝料は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があります。

また、算定基準には自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判所基準)とあり、最も低い基準が自賠責基準で、自賠責基準より少しだけ上回る基準が保険会社の独自で定めている任意保険基準です。

弁護士基準は、過去の判例を基に算出される、最も高額な基準となります。弁護士に依頼をすることで、裁判を行わなくても示談交渉段階から使用が可能なります。

麻痺が身体に残り、後遺障害等級が認められた場合は後遺障害慰謝料が請求できます。

相場

後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料です。

自賠責基準、弁護士基準での相場は以下の通りとなります。

 

後遺障害等級 自賠責基準 弁護士基準
要介護1級 1650万円

※1600万円

2800万円
要介護2級 1203万円

※1163万円

2370万円
3級 861万円

※829万円

1990万円
5級 618万円

※599万円

1400万円
7級 419万円

※409万円

1000万円
9級 249万円

※245万円

690万円
12級 94万円

※93万円

290万円

※令和2年3月31日以前の交通事故の場合

 

例えば、一下肢に高度の単麻痺が認められた場合は、後遺障害等級5級が認定されることとなります。

その際、自賠責保険では618万円が後遺障害慰謝料として支払われることになります。さらに、弁護士を入れて任意保険会社と交渉した際は、弁護士基準では、5級は1400万円が相場となりますので、最高1400万円を受け取れる可能性があります。

※自賠責保険から618万円を受け取っている場合は、1400万円より618万円が差し引かれた、782万円が相手の任意保険会社に請求できる最高額となります。

交通事故で麻痺が残ってしまった場合は、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。

交通事故における麻痺の種類等や慰謝料、逸失利益についてご説明をさせていただきました。

身体に麻痺が残ってしまった場合、最も重要となることは【適正な後遺障害等級を獲得すること】となります。

これまでに述べたように、等級によって、後遺障害慰謝料や逸失利益は大きく変動します。

1つ等級が異なるだけで、場合によっては数百万円以上の差が出る場合があります。

適正な後遺障害等級を獲得するためには、交通事故問題に詳しい弁護士に相談をすることをお勧めします。

相談のタイミングは早ければ早いほど良いでしょう。遅くとも、後遺障害等級申請をする前に弁護士に相談しましょう。

後遺障害等級申請では、後遺障害診断書の記載内容や画像所見などが重要となります。

依頼をすれば、等級の申請時から弁護士が適正なアドバイスを行い、申請手続きを代わりに行います。

麻痺が身体に残ってしまった場合は、交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。

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